POLICY PLATFORM / 上田いたる

熊本の暮らし、
どうですか。 ── 創る・育てる・守る、
熊本を動かす3つの輪。

卵が1パック300円、牛乳が280円を超える時代です。
物価は確実に上がった。では、給料は。
成長を追う政策も、暮らしを守る政策も、どちらも欠かせません。
3つの柱を互いに巡らせる、熊本発の循環モデルを提示します。

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GRAND DESIGN / グランドデザイン

熊本を動かす、3つの輪の循環。── なぜ、3つの柱が必要なのか。

世界の先進地は「事業を創り、人を育てる」ことで、人と資金を集めてきました。私たちが学ぶべき点は多くあります。同時に、暮らしの現場が置き去りになれば、人は安心して挑戦できません。熊本には、成長と暮らしの両方を同時に強くする道があります。

どんなに経済が伸びても、暮らしの足元が崩れてしまえば、人は安心して挑むことができません。逆に、暮らしを守るだけでは、次の世代に渡せる新しい産業は生まれません。だから私は、「創る」「育てる」「守る」── この3つの柱を互いに巡らせる「循環型の地域モデル」を提案します。

3つの柱は、独立した別々の政策ではありません。3つが輪のように繋がって回り出すことで、初めて熊本に「本当の豊かさ」が生まれます。

「創る」で稼ぐ力を生み、「育てる」で担う人を送り出し、「守る」で挑戦の足元を固める。足元が固まっているから、次の挑戦が始まる。この循環を、熊本の手で回します。

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CREATE / 稼ぐ力をつくる

創る熊本。── 誰かの下請け工場から、事業のオーナーへ。

熊本の1人あたり県民所得は年292万8千円。全国平均352万1千円に対し約59万円下、全国の83.2%水準です。この差の理由を、正面から考えます。そして、熊本を「事業のオーナー」に変える構想をお示しします。

01 / 暮らしの話から

物価は上がった。では、給料は?

熊本の暮らし、どうですか。熊本市の物価統計で、鶏卵1パック(10個)は319円(2026年7月、前年同月比+9.2%)、令和4年(2022年)平均214円の約1.5倍。牛乳1リットルも287円(同年7月、令和4年(2022年)平均221円)。物価は確実に上がっています。では、私たちの給料や収入はそれに追いついているでしょうか。

指標としての「県民所得」。熊本の県民1人当たりの所得は年292万8千円。全国平均は352万1千円、東京は636万3千円です。※県民所得は、企業所得なども含む総額を人口で割った指標です。個人の給与額ではありません。

目的としての「手取り」。熊本には熊本の強みがあります。まずは県民所得を全国平均352万1千円まで引き上げることを確かな一歩目にし、その先に、熊本で働く皆さんの手取りを着実に上げていきます

Fig. 01 1人あたり県民所得の比較(令和5年度(2023年度))
熊本
292.8万円
全国平均
352.1万円
東京
636.3万円
全国平均との差は年間約59万円/ 熊本は全国の 83.2% 水準(東京比 46.0%
熊本県「県民経済計算」令和5年度(2023年度)(1人あたり県民所得)/ 熊本県小売物価統計調査 熊本市の値(2026年7月)/令和4年(2022年)平均は同調査の年平均値
02 / 出荷額と所得は、別物

なぜ、大工場が私たちの懐に直結しないのか

「半導体の巨大工場(JASM)が来て、熊本は景気が良いのではないか」と思われるかもしれません。工場で働く方々の給料は、確かに伸びています。しかし、統計に現れる県民1人あたりの所得は、まだ全国平均に届いていません。ここには、構造的な理由があります。

県は令和7年3月(2025年3月)に半導体産業推進ビジョンを改定し、令和14年度(2032年度)までに半導体関連産業の製造品出荷額等を2兆8,000億円にする目標を掲げています。この目標は評価しています。ただ、一つ押さえておくべきことがあります。「出荷額(売上)」と「熊本の人の所得」は別物です。どれだけ生産が増えても、そこから生まれる利益は出資した会社のものになる。それが経済のルールで、誰かを責める話ではありません。

Fig. 02 JASM の出資構成比
県内資本の 出資 0%
TSMC(台湾)約86.5%
ソニーセミコンダクタソリューションズ約6.0%
デンソー約5.5%
トヨタ自動車約2.0%
県内資本の出資0%
JASM および各社公表資料に基づく

工場で働く人の給料は伸びています。ただ、事業から生まれる利益の大部分は、出資した会社へと戻っていきます。仕事を受ける側だけでなく、事業を持つ側にも回っていくこと。そのための構造を、熊本の中に育てる必要があります。

熊本県「くまもと半導体産業推進ビジョン」令和7年3月(2025年3月)改定(計画期間 令和5〜14年度/2023〜2032年度)
03 / 目指すべき姿

熊本自身が「事業のオーナー」になること

熊本は、誰かの下請け工場ではありません。熊本自身が、利益を生み出し、利益を受け取る事業の持ち主(オーナー)になることが必要です。

熊本には、その底上げに必要な種がすでに揃っています。技術の種――半導体・電子デバイス、バイオテクノロジー、材料技術。県内の大学・研究機関が何十年もかけて蓄積した研究の厚みがあります。現場の種――県内に本所を置く民営企業46,830社が持つ現場の技術力と、工場現場で培われた優れた人材。

優れた「研究」と「現場の力」が、ここに揃っている。あとは、それらを新しい事業や会社に育てていくこと。技術を事業に「つなぐ人」を、熊本に増やすことです。

総務省・経済産業省「令和3年 経済センサス・活動調査」(2021年)― 熊本県内の民営企業数 46,830社
04 / 政策提案

熊本県版EIR構想 ── 技術を事業に変える仕組み

そこで私は、「熊本県版EIR(客員起業家)構想」を提案します。事業を立ち上げた経験のあるプロ人材を県が一定期間招聘・委託し、大学の研究室・地場企業・投資家の間に入ってもらう。「つなぐプロ」が間に入ることで、熊本の技術から新しい事業を連続して立ち上げる。

新しい事業が生まれれば、既存の地場企業の新しい取引先になる。地場企業の技術が、次の新しい事業の土台になる。人が移り、事業を作った経験がノウハウとして熊本に残ります。加えて、熊本の強みである農業や観光も、既存の地場企業の高付加価値化という文脈で同じ枠組みに乗せる──ブランド化、加工、体験設計、海外販路まで、地場の現場が「利益を受け取る側」に回れるよう伴走します。熊本を「誰かの下請け工場」から、「自ら事業をつくり利益を生み出す県」へ。

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NURTURE / 挑戦を担う人を育てる

育てる熊本。── 興味を突き詰める時間と、大人の学び直し。

熊本の人口は168万3,115人(2025年10月1日)、1年で1万3,029人減少しました。この1年に生まれた子どもは10,225人で、平成25年の16,241人から約4割減。0〜14歳は12.4%のみです。新しい事業をつくる話と、それを担う人を育てる話は、必ず一緒に進めなければなりません。

01 / 分断の現実

若者は「仕事がある場所」に集まる

若い人は、単に「地元が好きかどうか」だけで住む場所を決めているのではありません。仕事がある場所に住んでいます。このことは、熊本県の中を見るだけで確かめられます。

Fig. 04 熊本県内 生産年齢人口比率トップ2(2025年10月1日)
菊陽町
62.3%
大津町
62.2%
県平均
54.9%
この1年で人口が増えたのは7市町村(大津・合志・益城・菊陽ほか)だけ。熊本市を含む38市町村では人口が減少。
熊本県推計人口調査結果報告(年報)令和7年(2025年)

県外に就職した若者への県の調査でも、理由の1位は「県内に希望職種がない」でした。給与の話はその後です。一方で、県内の高校生の47.2%が地元の企業を「あまり知らない」と回答しています。46,830社もあるのに、その存在が伝わっていない。

Fig. 05 県外就職の理由 / 県内企業の認知度
  • 1位県内に希望職種がない35.3%
  • 2位県内に希望企業がない32.1%
  • 3位給与等の条件が良い26.5%
高校生の県内企業認知:「知っている」14.9% /「あまり知らない」47.2%
熊本県「県内産業を支える人材の育成と若者の地元定着」(調査年度:平成27~28年度) ― 県外就職理由:平成28年度調査/県内企業認知度:平成27年度調査

「子ども・若者と、地元の魅力的な会社」が分断されている。①で見た「技術と事業の分断」と、まったく同じ構造です。

02 / 子どもたちへ

「自分の興味を熱中して突き詰める時間」を渡す

事業をつくる人は、教室で教え込まれて生まれるものではありません。私自身、20年この分野に関わってきましたが、事業になるかどうかを決めたのは、常に本人が「これを面白いと思えるか」という純粋な情熱でした。面白いと思えないものは続きません。続かないものは事業になりません。

だから子どもに渡したいのは、教科書通りの起業テクニックではなく、「自分の興味を熱中して突き詰める時間」です。熊本には、県内46,830社の企業と、大学・研究機関、そして半導体の集積が生む現場があります。子どもが見たら目を輝かせるような現場が確実にあります。

私がやるのは、子どもたちをそこへ連れていくこと。単なる見学ではなく、自分の興味を仕事にしている大人と、名前と顔がわかる関係で出会わせる。事業づくりの現場を知る私だからこそ、その橋渡しができます。

県は令和7年3月(2025年3月)の改定で、県内教育機関から半導体関連企業への就職者目標を500人以上(改定前255人以上)に引き上げました。高い目標で、評価します。ただそれは「就職する人」の数です。事業をつくる人、会社を始める人は、その外側にいます。私はそこを埋めます。

熊本県「くまもと半導体産業推進ビジョン」令和7年3月(2025年3月)改定(就職者目標500人以上)
03 / 大人たちへ

40代・50代の経験は、学び直しで最強になる

私自身、働きながら社会人向けの経営大学院に通いました。仕事との両立は大変でしたが、体系的に学び直したことでものの見え方が変わり、共に学ぶ仲間との出会いから新しい仕事が生まれました。

産業の形が大きく動く今、40代・50代のベテランに「あとは若い人に任せて」とは言いたくない。20年の経験は、最新の学び直しと掛け合わせることで最強の武器になります。学び直しは、若い人のためだけでなく、経験を持っている大人のためのものです。

働きながら学べる場を、県内の大学や高専と連携して広げます。大人の経験と、新しい学びをつなぐこと。ここでも私の役割は「つなぐこと」です。

03
PROTECT / 挑戦する人の足元を支える

守る熊本。── 支える人を、県が責任を持って支える。

介護、保育、医療。人口の高齢化と、生まれる子どもの数の減少。この二つが同時に進む今、暮らしを支える現場の担い手を確保することは、熊本にとって最も大切な仕事の一つです。「支える人を、県がしっかりと支える」── これが、守る熊本の中心です。

01 / 暮らしの足元

暮らしの足元が固まってこそ、人は挑戦できる

熊本で新しい挑戦をしようとする人が、最後までそれをやり切れるかどうか。それは個人の腕前だけで決まるものではありません。親に介護が必要になったとき、子どもの預け先が見つからないとき、自分や家族が病気を抱えたとき。人が挑戦を止めざるを得ないのは、たいてい「暮らしの側の事情」です。

だから「守る熊本」は、挑戦するすべての人の足元を固めるための政策。その足元を実際に支えているのは、介護、保育、医療の現場で働く人たちです。

02 / 人手不足と、そのしわ寄せ

足りないから、支える人が疲れていく

介護、保育、医療。暮らしを支える現場で、共通して起きているのが人手不足です。人が足りないから、一人あたりの負担が増える。負担が重くても、賃金は仕事の重さに追いついていない。その典型が保育の現場です。下の数字は、保育士という職業が、他の仕事に比べて賃金も勤続年数も低い水準に置かれていることを示しています。勤続年数が全産業より約4年短いという事実は、現場を長く続けることの難しさを示しています。

Fig. 06 保育士 vs 全産業平均 ── 賃金・勤続年数
月額給与
保育士 26.8万円
全産業 33.0万円
平均勤続年数
保育士 8.4
全産業 12.5
給与は全産業より月約6万円低く、勤続年数は全産業平均より約4年短い
厚生労働省「賃金構造基本統計調査」・「保育士の現状と主な取組」ほかを基に作成

人手が足りない現場では、一人あたりの仕事量が増え、長時間労働が常態化します。仕事の重さに見合わない処遇と、長く続く負担。その結果、勤続年数は全産業平均より約4年短いという現実があります。人が抜ければ残った人にさらに負担が乗る ── この構造を断つ入口が「処遇改善」です。介護、保育、医療の担い手が長く、安心して働ける職場をつくること。これが、「支える人を、支える政策」の中心にあります。

03 / 原因と、稼ぐ力とのつながり

賃金を引き上げる原資は、「創る」から生まれる

介護、保育、医療の現場で共通して聞くのは、「人手が足りない」「賃金が仕事の重さに見合わない」という声です。制度・報酬の仕組みは大枠が国で決まりますが、県ができる仕事も確かにあります。そして、その仕事の多くは①「創る熊本」とつながっています。

熊本の1人あたり県民所得が292万8千円にとどまっている限り、現場で支える人の賃金を押し上げる原資も、そこで止まってしまう。①の「創る熊本」で県全体の稼ぐ力を底上げすることは、現場で「支える人」の賃金を正当に引き上げる原資をつくることなのです。

04 / 担い手と、稼ぐ力

支える人を支える熊本が、挑戦し切れる熊本

熊本の福祉に必要なのは、立派な建物や箱モノではありません。現場で支えてくれる「人の手」です。介護、保育、医療。担い手を確保していく道は、県民の所得を引き上げていく道と、完全に重なっています。

支える人が安心して働き、定着し、技能が上がる。だからこそ、お年寄りやお子さんが安心して暮らせる。そして家族が安心して、自分の挑戦へと一歩を踏み出せる。

皆さまの現場の声を、
政策の出発点に。

暮らし、仕事、教育、子育て、介護、地域経済。
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